
特許調査をするとき、または、特許調査を外注したとき、「登録優先」「公開優先」という文字を目にしたことがあると思います。
知財初心者だったり、普段知財に接点がない人だと「何が違うの?」と思うのではないでしょうか?
私は特許調査員として5年以上になりますが、知財業務を始めた頃は「この調査ではどっちを優先するんだっけ?」「なぜこちらを優先するべきなのか?」と思う事がありました。
今回は「登録優先と公開優先はどんな点で違うのか?」「どう使い分けているのか?」という点に注目して紹介します。
調査によって何故「公開優先」と「登録優先」を使い分けているかを理解すると、スムーズに調査を進めることができるようになります。
そして、ここで紹介するポイントを理解すれば、調査に必要な公報種別(登録公報か公開公報)や確認する所(請求項なのか明細書全文なのか)がしっかり分かるようになると思います。
そもそも登録優先と公開優先の違いとは?
「登録優先」「公開優先」とは何?
公報には「登録公報」と「公開公報」の2種類があることはご存じかと思います。
例えば、とある出願で公開公報が発行された後、審査を通り登録公報が発行されているものがあるとします。
この場合、調査によって「登録公報」か「公開公報」のどちらを調査するかが重要になってくるのです。
「登録公報」を優先して見るのか
「公開公報」を優先して見るのか
これが、「登録優先」「公開優先」ということなのです。
(どの調査の時に、「登録優先」か「公開優先」かは後半で紹介していきます。)
もう少し丁寧に説明しますと、
ある特許出願をした場合、出願から1年半後に公開公報が発行されます。
その後、審査を通過しその出願内容が登録されたとき登録公報が発行されるのが、出願の大まかな流れです。
登録公報と公開公報が両方ある場合において、
「登録優先」では「登録公報」の内容を確認することを意味します。
一方、「公開優先」では「公開公報」の内容を確認します。(この場合の調査では、登録公報の内容で判断をしないことになります)
もちろん調査時点で、「登録には至らなかった」、もしくは、「審査中」という理由で、公開公報しか発行されていない場合もあります。
このときは「登録優先」「公開優先」どちらであっても、「公開公報」の内容を確認することになります。
公開公報しか存在しないので当然なのですが、きちんと説明をするとこういうことになります。
登録公報と公開公報で異なる点は「権利の範囲」
登録公報が発行される時点は権利の範囲、つまり請求項が修正されています。(補足:もちろん修正がないものもあります)
特許出願の流れをおさらいしますと、大抵の出願は審査請求をすると「拒絶理由通知書」が来ます。(この通知がなく、登録になるケースももちろんあります)
この通知書は何かをざっくり言うと「すでに世の中には似た発明が公開されているから、特許として認められないよ」という感じのことが書かれています。
そして、拒絶理由通知書は、引用文献(すでに出願されている公報)のどの部分と、出願人が出願した内容が似ているかが説明されています。
出願人はこの通知が来た後は、「意見書」で引用文献との相違点を説明したり、請求項の範囲を狭めたり(請求項の減縮)して対応していきます。
こういった経緯があり、登録公報では公開公報の請求項に記載される範囲を狭くする修正がされるのです。
調査の種類によって、登録優先と公開優先を使い分けます
どの調査の種類のときにどちらを優先するのか?
特許調査では調査の種類によって、公開優先か登録優先かを使い分けています。
一般的に特許調査は大まかに「無効化系」「侵害系」の2種類に分けられると思います。(調査種類の呼び方は組織によって微妙な違いはあります)
・権利の範囲を調査したいのか(侵害系)
・すでに公開されている発明かを調査したいのか(無効化系)
どちらの調査をするかで「登録優先」「公開優先」と使い分けています。
基本として、
権利の範囲を調査する「侵害系(例:侵害予防調査)」の時は「登録優先」、
すでに公開されている発明かを調査する「無効化系(例:出願前調査、無効化調査)」の時は「公開優先」という選択になります。
侵害系は「登録公報」と「特許を受ける可能性があるもの」が調査対象
簡単に侵害予防調査がどんなものかを説明しますと、発明した製品を製造もしくは販売を考えたとき、他社(他者)の権利を侵害していないかを調査しています。
侵害かどうか判断する対象となるものは、条文の要点をまとめると「特許を受けている発明で、実際に事業として実施しているか」という基準があります(特許法2条、68条を参考にしています)。
この条件だけで考えると、侵害予防調査とは基本的に「特許を受けている発明」、つまり登録公報が調査対象となりますよね。
とはいえ、侵害予防調査は「特許権になる可能性があるもの」に対しても調査をすることも必要です。
そのため、「登録優先」として調査をしていくのです。
つまり、登録公報と、将来登録になるかもしれない公報(生きている公開公報)が調査対象になるのです。
出願後(もしくは登録後)、何らかの理由で取下になったり、権利が満了、もしくは、放棄したものは調査対象外になります。
無効化系は「すでに公知になっている発明か」を公開優先で調査していく
一方、出願前調査や無効化調査のような無効化系の調査では、すでに公開されている(公知である)発明かを調査していくので、広い範囲で記載されている公開優先で調査をしていきます。
▼参考にしました日本弁理士会のページのリンクを貼っておきます。
ちなみに、出願前調査と無効化調査だと、調査の規模や調査の目的(発明アイディアの特許性があるのかを調査なのか、対象の特許を無効化するための調査なのか)で多少異なる点はあるのですが、どちらも「特許性を否定しうる文献が存在するのか」という点で共通しており、調査の基本は同じものになります。
ちなみに、無効化系調査の補足になりますが、公知例を探すので調査範囲としては明細書全文が対象になります。
その他の調査では、調査依頼者の考えに沿うことも
特許調査には、先行技術調査などはじめとした幅広い調査がありますが、公報種別(登録優先か公開優先)は調査依頼者の置かれる状況や考え方で臨機応変に合わせることもよくあることです。
この点は、しっかり依頼者からヒアリングを行い、すり合わせていくことになります。
さいごに
いかがでしたか?
現職に就いたばかりの私は、「登録優先」「公開優先」の違いや調査の考え方をしっかり理解できるまでは、「どちらを優先するんだっけ?」としょっちゅう迷っていました。
今でこそ当たり前のように使い分けていますが、慣れるまでは何度も何度も上司に聞いていました。
きっと、私以外にも「どっちだっけ?」と迷う人はいるのではないかな、と思い今回のテーマとして取り上げました。
もちろん、職場によって調査の考え方やメソッド(ノウハウなど)はありますので、ここで書かれていることは参考として読んでいただけるとちょうど良いかと思います。
この記事で、少しでも知財業務のステップアップに役立てたら幸いです。


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